第10話 「サカラメンタ提要〜日本で初めて出版された楽譜〜」 第8回演奏会より
今をさかのぼること四百年余り前の1605年(慶長10年)、長崎のコレジヨで典礼書「サカラメンタ提要」が出版されました。この中にはグレゴリオ聖歌が収録されていて、この楽譜こそ現存する日本最古の印刷楽譜として注目されています。
「サカラメンタ」いうことばはキリスト教徒でない方には耳慣れないかもしれませんが、日本語で「秘蹟」と訳されます、教義上最も神聖なるもの、あるいは非常に大切な儀式ではないかと私は理解しています(もし間違っていましたら申し訳ありません)。当時の中世のキリスト教会には7つの秘蹟(洗礼・堅信・聖体・婚姻・悔悛・叙階・終油)があり、この秘蹟を授けるためのマニュアル(解説書)として、日本での布教活動を円滑に行うため、教会暦や式文、その説明文とともに聖歌もまた印刷されました。聖歌は全部で19曲あり、葬儀の際歌われるもの、また司教訪問の際歌われたものと考えられています。「サカラメンタ提要」400年を記念して2005年12月に全曲の演奏を収めたCDが完成しています(演奏:大分中世音楽研究会、指揮:竹井成美)。
天正遣欧使節団
次にどのような楽譜かといいますと、「朱色の五線」に「黒い四角の音符(ネウマ)」が印刷されていて、現在の五線譜とは異なります。印刷にはグーテンベルグの活版印刷機が使用されました。これは天正遣欧使節団(1582—1590)がヨーロッパから帰国する際の土産品として持ち帰ったものです。このグーテンベルグの印刷機でキリスト教の教義や典礼のための宗教書が印刷されたのはもちろんですが、「平家物語(1592年、天草)」や「伊曽保(イソップ)物語(1593年、天草)」の読本、その他にも語学書や辞典などが印刷されました。
グーテンベルグの活版印刷機(復元)
コレジオとは宣教師育成の大学にあたるもので、当初は豊後府内(現在の大分市)に設立されました、その後キリシタン禁令のなかコレジオは1591年天草へ移され、印刷機も同時に天草へ運ばれてこれらの読本は印刷されました。
現在、天草市河浦町の「天草コレジヨ館」に復元されたグーテンベルグの活版印刷機が展示されていて、実際に目にすることができます。
今宵の演奏会では、熊本県とも縁あるこのグレゴリオ聖歌の響きをお楽しみいただけると幸いに存じます。